矢嶋孝行(やじまたかゆき)
株式会社やまと代表取締役社長
1982年生まれ、東京都出身。スノーピーク/T-MICHAEL/COOHEM等多様なコラボレーションも展開。2020年4月、公的補償に先駆け和装の産地企業に対する緊急融資を実施。6月には不要となった着物を回収して自社商品券と交換する独自のアップサイクルを試行、今後さらに推進していく。

_INTERVIEW #005
TAKAYUKI YAJIMA

六月某日。例年なら、この時期であればパリもしくはフィレンツェにその姿はあったはず。株式会社やまと代表取締役社長 矢嶋孝行氏。
お話を伺ったのは神田明神鳥居脇に佇む、“メンズきものテーラー”を掲げるコンセプトショップ
Y. & SONS。

「モノに込められた想いと
背景を伝え、魂を宿すのが
我々のつとめ。
そしてあらためて想う、
街の景色は人がつくっている。その人達がどんな服をまとっているか、その風景を担っていくのが我々の仕事」

今、本質が問われているように思います。
これまでファッションということばは限りなく“消費物”という意味合いに等しく、サステナビリティということばはいつしか企業の販促ツールとして多用されていました。しかし、このような事態を機に売上も収入も伸ばすことを前提とした旧来の資本主義社会は終焉を迎え、サステナビリティということばの本来の意味と意義を見つめ直し、循環型の新しい社会を模索する方向へ舵を切ることになるでしょう。

今回、海外からの物資は届かず、どれだけ中国に頼り切っていたか痛感すると共に、産地企業について再認識することになりました。景色の中に、私達の生活圏内に、ものづくりの現場が在るということがどれだけ尊いことかと。ひとりでできることって少ないんですよね、いつでも誰かが誰かを助け、そうしてまた誰かが誰かのためになる。
私共も先方も休業を余儀なくされていた折り、縫製工場から声が上がりました。“マスクできます”と。工場のためになり、人のためにもなるならと、いち早く製造に乗り出し、国の配布より遥かに速やかに提供することができました。取引先というよりむしろ、パーソナルな結び付きだったからこそ生まれたマスクは、ひとつひとつ和裁師が手掛けたものです。
こうした産地企業とのつながり、また社員同士のつながり、お客様とのつながり、海外とのつながりをそれぞれ大切にするとともに、私共は「きものには無限の可能性があることを信じ、きものを通じて心踊る夢を実現していく」ことを宣言しています。
この“心踊る夢”には様々な解釈があり、「人々をワクワクさせる/気持ちを前向きにさせる」というものでもあり、「何者にもリスクを強要されることなく、自らのリスクだけでチャレンジすることができる社会の実現」というものでもあります。

しかしながらこのコロナ禍により、吐け口のない不満と出口の見えない不安が沸々と湧き上がり、他者を受け入れず撥ねつけるという風潮が蔓延してしまいました。
そこで思い返して頂きたい街の景色があるのです。遡ることの三月、卒業式のシーズン。その晴れの舞台は軒並み取り止めとなりました。それでも、そんなさなかでも、その時期に街中で卒業生と思しき袴姿の女性をお見かけしたとき、とても嬉しかったのです。
日本の方でしたら皆さん、そう感じたのではないでしょうか?
一度訪れたら、四季折々の民族衣装に身を包んだ国民と何度かすれ違う。そんな世界随一の不可思議でユニークな国が、この日本という国です。この国に限らず、どのような地域であれ国家であれ、それぞれの個性や文化がしっかり際立ち、その上で互いに尊重し、認め合う。そうして差別や紛争が無くなることを信じ続けていく。
伝統とは、絶えずその時代の環境に合わせて一歩半ずつ先に進んでいくもの。そうしてはじめて続いていくもの。人々の過去のイメージをそのまま伝えるのだとしたら、それはつなぐだけ、伝承にすぎません。着物も文化も、この国の社会も。この先に進むため、少しずつ変わっていかなければいけません。

最後に、私自身が大切にしていることをお伝えします。それは、手元の知識や情報だけでは納得できず、その現場まで足を運ぶこと。国内の産地企業はもちろん、和装に適した絹糸をこの眼でたしかめるため、ブラジルまで飛んで行ったこともあります。そして、人に会います。年齢/性別/国籍問わず、先方の言語が話せなくても。
とある本に感銘したら、その著者に会いに行くこともあります。とにかく現地に出向き、人に会い、本を読み漁る。また耳と心さえ開いていれば、子供でも新入社員でも、何者からも学びがあると考えています。

矢嶋孝行(やじまたかゆき)
株式会社やまと代表取締役社長
1982年生まれ、東京都出身。スノーピーク/T-MICHAEL/COOHEM等多様なコラボレーションも展開。2020年4月、公的補償に先駆け和装の産地企業に対する緊急融資を実施。6月には不要となった着物を回収して自社商品券と交換する独自のアップサイクルを試行、今後さらに推進していく。